札幌高等裁判所函館支部 昭和41年(う)10号 判決
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〔判決理由〕一原判決は、被告人成田孝に対する昭和三七年六月二一日付起訴状の「被告人は、昭和三七年一月二八日午後八時三〇分頃、日本国有鉄道青函船舶鉄道管理局函館桟橋第一岸壁より出港直前の右国有鉄道所有にかかる青函連絡船第七青函丸内において、同船船長遠藤次郎吉から数回にわたり直ちに下船するよう強く要求されたのに右要求を無視して同船内にふみ止まり、同日午後九時五三分頃まで同船より退去しなかつたものである。」との艦船不退去の公訴事実につき、日本国有鉄道青函船舶鉄道管理局(以下当局ともいう)が、青函連絡船における船舶運行の近代化合理化のため樹立した第二次五カ年計画に基き、昭和三六年一二月一五日地本に対し、連絡船乗組員の基準要員を改正し、連絡船全体で一一一名を減員し、陸上の船員区に配置転換する旨の提案をするとともに、基準要員改正は、当局の管理運営事項であり、地本との協定により事前協議事項となつているものの、地本に呈示、説明すれば足り、その同意を得る必要はないとして、同三七年一月二三日事前協議に基く説明を打切り、翌二四日から右定員削減案による配置換え対象者に対する事前通知の手続を進めたこと、これに対し地本は、基準要員改正は、労働条件の変更を伴うものであつて、地本との協議により決すべきであるとし、前記提案の一方的実施を緊急に阻止するため、各船舶においてビラ貼り活動をするほか、事前通知の実態を把握し、組合員に対し地本の方針を周知徹底させるとともに事前通知を一括返上するよう指導するため、組合役員を各船舶へ派遣しオルグ活動にあたらせることに決定したこと、被告人成田は、右決定に基き、昭和三七年一月二八日午後八時三〇分ごろ、ほどなく出港予定の第七青函丸に航海中その非直者を対象としてオルグをする目的で乗り込み、同船船長遠藤次郎吉等より下船要求を受けるも応ぜず、ようやく同日午後九時五〇分ごろ下船したこと等を証拠により認定したうえ、以上の事実に徴すれば、同被告人の第七青函丸への乗船は、同連絡船分会の組合員を対象として、事前通知の実態を調査し、かつ組合員に連絡船の基準要員改正という組合員の勤務条件に重大な影響を及ぼす問題についての地本の方針を徹底させ、もつて組合の統一的行動を確保しようとしたものであつて、その目的において正当であり、手段方法においても不都合の点はない、また、地本の役員が単独で乗船オルグすることは特段の事由がないかぎり船舶の安全を害するものとは認められないところ、本件において特段の事情があつたとは認められない。してみれば遠藤船長の退船要求は不当であり、被告人成田がこれに応じなかつたからといつて直ちに艦船不退去罪を構成するものではない、と判示して、同被告人に無罪の言渡をしたのである。
所論は、要するに、本件において被告人成田の乗船オルグの正当性、緊急性、必要性はいずれも認められず、しかも乗船オルグを容認するにおいては船内秩序を乱しひいては船舶の航行の安全を害するおそれなしとしないのであるから、遠藤船長において下船要求をなしたのは正当であり、右要求を拒否し下船しなかつた被告人成田につき本件艦船不退去罪が成立することは明らかである、したがつて、これを否定した原判決は、事実を誤認し、ひいては法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。
よつて所論に鑑み、原判決の当否につき検討するのに、原判示無罪理由第一冒頭記掲の各証拠を総合すれば、原判決が証拠上確定できるとした事実をほぼ肯認することができるが、なお、本件発生当時の状況につき更に敷衍し、詳細に判断すれば、次のとおりである。すなわち、……を総合すると、地本は、事前通知一括返上の方針を決定し、各連絡船分会を通じ通知を受けた者の氏名等を一部把握したが、事前通知が一部の者に対しては通知書を居宅に郵送したり直接居宅で手交する等の方法でなされたため、なおその全貌を掌握するまでには至らなかつたので、昭和三七年一月二八日午前闘争委員会を開き、第七青函丸を含む各連絡船に対し地本の執行委員等を派遣しオルグをすすめ、事前通知を受けた者の氏名、人数等を把握するとともに、各連絡船分会の組合員に対し地本の前記方針を周知徹底させ、事前通知を受けた者に対しては事前通知を返上するよう指導することを決定したこと、右決定に基き同日夕刻被告人伊藤寿雄が第八青函丸に赴き、まず士官ルームにおいて停泊当直者である機関掛、甲板掛以外の全組合員(勤務交代で下船する非番者も含む)が参集して職場集会を開き、組合員の意思統一を行うと同時に、船長、機関長等に対し既に出されていた事前通知の撤回を求め集団交渉を行つたが、そのうち出港用意となり、船長等は非番者の下船を求め勤務についたこと、被告人伊藤は、なお非番者等と苦情処理、職場要求の提出方法等につき協議を続け、出港時刻の午後七時二〇分ごろ船長から下船要求を受けたが、運航中オルグを続けるため乗船を認めるよう要求して応ぜず、押問答が続き約三〇分経過したのち、第八青函丸の組合員らが更にオルグを受けなくとも同船分会独自で問題が処理できるから降りてくれと要請するに及んで、ようやく下船、第八青函丸は午後七時五一分ごろ出港したこと、当局側は、午後七時四〇分ごろ第八青函丸における右の紛争について連絡を受け、他の連絡船においても同様の紛糾が生ずることを察知し、中村海務部長、佐藤総務部労働課長、海務部佐々木監督、田中海務部総務課長、津野海務部運航課長等が参集協議し、午後八時二〇分ごろ第七青函丸遠藤次郎吉船長に対し組合幹部が乗船オルグを求めてきても拒否するよう指示したこと、当時第七青函丸は、定時一九分遅れの午後七時一九分函館桟橋に着岸し、定時一〇分遅れの午後八時三五分函館発の予定(その後更に定時一五分遅れの午後八時四〇分発に変更)であり、その三〇分前である午後八時五分ごろより出港用意に入つていたこと、被告人成田は、午後八時二〇分ごろ、前記闘争委員会の決定に基き、第七青函丸分会所属の組合員のオルグのため同船に赴き、一旦甲板部の居室に入つたが、同船紅林一等航海士から乗船拒否を告げられるや船長室に赴き、遠藤船長に対し乗船拒否の理由の説明を求め、押し問答を続けたのち物別れとなり、乗船して行く旨を告げて甲板部食堂に戻り、第七青函丸分会長高桑正身に乗船オルグを拒否された旨を告げたこと、高桑は、分会としてはオルグ要請をしていなかつたが、取りあえず、機関部非番者等を甲板部居室に集め、被告人成田に乗船オルグを拒否された経過等を報告させたところ、集会者達は同被告人の乗船オルグを求めたこと、その間高桑は、遠藤船長に呼ばれ、被告人成田を下船させるよう求められたが、これを拒否し、かくして出港予定時刻を経過するも被告人成田は下船せず、甲板部船員居室において非直者等に対し事前通知問題に対する地本の態度とその対策等について説明をしていたこと、一方遠藤船長は、状況視察のため来船をした前記津野課長、佐々木監督らと対策を協議し、再三、再四にわたり甲板部船員居室に赴き、被告人成田に下船を求め、更には同室で坐りこんでいる同被告人に手をかけて連れ出そうとしたが、同人が階段に足をかけて抵抗したため、下船させることはできなかつたこと、午後九時三五分ごろ、電話連絡により事態を知つた地本金青年部長が来船し、組合員等に対し、時間も大分遅れたしこの辺で事態を収拾してはどうかと提案し、当局側と交渉の末、当局側、組合側同時に下船する旨の諒解がつき、ようやく午後九時五〇分過ごろ被告人成田が下船するに至つたが、第七青函丸は出港遅延のため青森における貨車の継送が困難になつたとの理由により運休となり、当夜沖出し(函館港内に停泊)され、青森に向け出港することなく終つたことが認められる。
そこで艦船不退去罪の成否について判断する。おもうに、地本が連絡船分会所属の組合員に地本の方針を周知徹底させ組合員の団結をはかるためオルグ活動するからといつて、どのような事情のもとでも常に当局の管理する船舶内に立入り滞留することが許されるわけではないとともに、また船舶の管理権者たる船長が拒否するからといつて、船舶内への立入り、滞留が一切許されないものとなるわけでもない。オルグ活動を目的とする者が管理権者たる船長の下船命令にもかかわらず船舶内に滞留する行為が艦船不退去罪を構成するか否かは、立入り滞留する側と下船要求する側との双方について、それぞれの具体的動機とその行為の態様とを相関的に考慮し、下船命令に正当の理由があるか否かによりこれを決すべきであるが、右の判断をなすにあたつては、船舶が多くの人命を預つて海上を航行する危険共同体でありかつ乗組員が外部から隔離された一つの生活集団を構成する生活共同体でもあること、したがつて右の船舶共同体の長として船舶の安全運航の最高責任者の地位にある船長は、船内の統一をはかる統制権限をもたねばならず、そこで船員法は、船長に船舶内にあるすべての者に対し職務執行上必要な指揮命令を行なう権限を与えるとともに、命令の実行を確保するために具体的な処分あるいは身体拘束をなし得る等船内秩序の維持に必要ないわゆる船舶権を賦与していること(船員法七条、二二条、二五条ないし二七条)等、船舶および船長の地位の特殊性を更に考慮に加えなければならない。
本件についてこれをみるのに、まず被告人成田の第七青函丸への乗船は、地本の決定に基き同船分会所属の組合員を対象として事前通知の実態を調査しかつ組合員に地本の方針を徹底させもつて組合の統一的行動を確保することを目的とするものであつて、その目的自体は不当とはいえないが、同被告人の第七青函丸への乗船の具体的動機は夜間同船の航行中オルグ活動をなすというにあるから、その当否を更に審究しなければならない。
しかして……の各供述によると、連絡船乗組員のうち、機関掛、甲板掛は函館当直、青森当直の二組に分れた交代勤務制をとり、函館、青森間はいずれか片番が非直となり、また操かん掛、操機掛は停泊当直者であつて航海中は非直となること、機関掛の当直は一時間交代勤務で、休息をとること、連絡船においては一一時から一二時までが昼食時間、一五時から一六時までが夕食時間となつていること、乗船オルグは、右の非直者および休息時間中の機関掛当直者を対象とするか、あるいは、食事時間を利用し全組合員を対象としてオルグ活動を行うことを企図したものであること、昭和三七年一月二八、二九両日における第七青函丸の運航ダイヤは、二八日六時五〇分函館着(一〇一便)、七時勤務交代、八時一〇分函館発、一二時五〇分青森着(一〇六便)、一四時三〇分青森発、一九時〇〇分函館着(一〇七便)、二〇時二五分函館発(これが二〇時四〇分函館発に変更されたことは前認定のとおりである)、二九日一時五分青森着(一一二便)、二時二〇分青森発、六時五〇分函館着(一〇一便)、七時勤務交代というのであり、本件当日第七青函丸が予定どおり午後八時四〇分に函館を出港したとすれば、その後青森到着までの間は非直者の就寝休息する時間帯であつて、かかる時間帯においては乗組員同志でも部屋の中で大声で話すのは遠慮していること、他方遠藤船長は、従来より、業務に支障のないかぎり、停泊中船内におけるオルグ活動、職場集会等を許可していたことが認められる。
以上の事実によれば、夜間航行中の連絡船内における乗船オルグは極めて限られた時間内に対象者を限定して行うほかなく、仮に所期の目的を達すべくオルグ活動を活発に行うにおいては、非直者の睡眠を妨げるに至ること、したがつて従来から許されていた停泊中のオルグあるいは勤務あけの乗組員を対象とするオルグの方がオルグの目的自体に即していえばより適切効果的であることが明らかである(被告人福田郁夫は、当審において「乗船オルグは昼間だけ行い、夜間は乗組員に充分睡眠をとつて貰うということでオルグ活動は一切やらない。」旨供述し、このことを裏付けている)。
他方……の各供述によれば、当局側は乗船オルグは、船内秩序を乱し、組合員と非組合員との協調性を阻害するおそれがあり、殊に夜間航行中の乗船オルグは非直者の睡眠を妨げるおそれがある等の理由により、船舶の運行上の安全を確保する見地から、従来より組合幹部がオルグ活動の目的で乗船してゆくことを拒否する方針をとつており、右乗船オルグを正式に認めたことはなく、ただ実際上船長ら不知の間に組合幹部がオルグ活動の目的で乗船していた事例があつたにすぎないこと、本件においても遠藤船長は、被告人成田が第七青函丸に乗船し航行中オルグ活動をすることは、船内秩序を乱し、非直者の睡眠を妨げ、ひいては船舶の安全運航を阻害するおそれなしとはしない等の理由から同被告人に下船を命じたものであることが認められる。……
してみると、被告人成田の本件乗船オルグを拒否されることによつて組合に及ぶ不利益とこれを認めることにより予測される船舶の安全運航上の支障とを勘案すると、遠藤船長の下船命令が理由がないとはいえない。
この点につき、原判決は、「停泊中のみに乗船オルグを認めるものとすれば、停泊時間は一般に短時間であり、その間には貨客の積降し、勤務員の交代、物品の受取り等の諸作業があつて、このような時間帯におけるオルグ活動のみでは組合はその法で認められた権利を十分に行使するをえないものと認められる。」と説示している。なるほど停泊時間が一般に短時間であり、出港用意に入つてからの時間を除けば、オルグ活動をなしうる時間は僅々一時間たらずであることは前認定の事実から明らかであつて、オルグの目的いかんによつては必ずしも目的達成に充分なものとはいえない。しかし、本件におけるオルグの目的が停泊中のオルグにより不充分ながらも達しうることは、前示のとおり、同日夕刻第八青函丸に赴いた被告人伊藤寿雄が停泊中のオルグによりほぼその目的を達し、同船分会の組合員から更に乗船オルグを受けなくとも分会独自で問題が処理できるから降りてくれとの要請を受けて下船している事実に徴し明らかである。また被告人成田は、前示のとおり、停泊中のオルグは行つていないのであるが、本件において停泊中のオルグにかえ夜行便の乗船オルグを認めなければ組合の権利行使に遺漏を来す結果となるような特段の事情も認められない。
原判決の右説示は、一般論としてはとも角、本件の如き夜行便の特殊状況と対比するときは、直ちに乗船オルグの正当性を支持し得る論拠となすに足りない。また、原判決は、特段の事由がないかぎり地本の役員が単独で乗船オルグをすることが船舶の安全性を害するおそれがあるものとは認められない旨説示するが、これもまた、船舶および乗組員の勤務の特殊性に鑑み、本件の如き夜行便における乗船オルグについては適切といえない。
以上の次第で、被告人成田が遠藤船長の下船命令を拒否して下船しなかつたのは正当な行為とは称し難く、艦船不退去罪を構成するものといわなければならない。原判決が、遠藤船長の下船命令は不当であり、被告人成田がこれを拒否して下船しなかつたからといつて、直ちに艦船不退去罪を構成することはできないとしたのは、事実を誤認し、ひいては法令の解釈適用を誤つたものであり、その結果判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決中被告人成田に関する部分は到底破棄を免れない。論旨は理由がある。<中略>
二所論は、要するに、原判決は判示有罪部分に関する事実第二(二)(イ)(ロ)において各建造物侵入の事実を認定したが、被告人沢田、同成田の第一、第二信号扱所への各立入りは、組合員に職場大会への参加を呼びかけ、同所に待機中の職制の者に対しては説得の方法によつて協力を要請することを目的とし、立入りの手段方法も社会通念上容認される限度をこえていないものであつて、正当な組合のオルグ活動に属するから、被告人らの右立入り行為は建造物侵入罪を構成しないのであり、原判決には、事実の誤認、労組法一条二項、憲法二八条に違背する誤りがある、というのである。
おもうに、組合のオルグ活動を目的とするからといつて、どのような事情のもとでも常に信号扱所への立入り行為が許されるわけではないとともに、また管理権者が拒否するからといつて、一切の立入り行為が許されないものとなるわけでもない。組合のオルグ活動を目的とする者が管理権者の拒否にもかかわらず信号扱所へ立入つた行為が建造物侵入罪を構成するか否かは、立入る側とそれを拒否する側との双方について、それぞれの具体的動機とその行為の態様とを相関的に考慮したうえ、管理権者の立入り拒否が正当か否かにより決すべきであることは、前に検察官の控訴趣意第二点に対する判断で説示しところから明らかである。
本件についてこれをみるのに、原判決挙示の関係各証拠によれば、原判示有罪部分に関する事実第二の(一)および(二)の(イ)(ロ)掲記の本件各立入り行為に至るまでの経緯を肯認することができる。
右の事実によれば、被告人沢田、同成田の本件各信号扱所内への立入り行為の動機ないし目的は、単に、地本闘争委員会の決定した昭和三七年三月三一日の勤務時間内二時間の時限ストを実行するため、信号扱所で勤務中の者に勤務時間中の職場大会への参加を呼びかけることにとどまらず、同信号扱所で勤務員を監督するとともに該勤務員らが職場を離れた場合における代務の任に就くべく待機中の監督職制の者らに対してもその退去を執拗に説得するところにあつたこと、本件各立入り行為の態様は、組合員による信号扱所占拠およびそれによる列車の運行停止の事態を予想し、これに備えるべく当局側が各信号扱所周辺にそれぞれ警備員、公安職員等一〇〇名ないし百数十名を配置し、信号扱所の確保を図つたのに対し、組合側は、右の当局側の警備を排除すべく、二信においては、組合員約二五〇名がスクラムを組んだ四列縦隊で二手にわかれて当局側警備員を挾撃し、激しい押合い、もみ合いの末、当局側の警備を排除して二信周辺を組合側により占拠し、かくして被告人沢田が二信に立入ることができたというのであり、一信においては、組合員約二〇〇名が同様スクラムを組んだ四列縦隊で二手にわかれ、当局側警備員を挾撃する態度をとつたところ、当局側警備員の指揮者の一人である中村定雄工事課長と地本側米田三夫執行委員との間で、怪我人が出るのを防ぐため、組合側は当局側を挾撃するのを止め、線路側からやんわり押す、当局側は押されれば下る、二信階段上にいる公安職員は降すとの妥協が成立し、公安職員が二信階段から降りて同所南に隣接する継電器室を廻り線路側に出ようとしたとこころで、組合側は漸次一信と継電器室間の当局側警備員を押して階段附近まで押進み、一信階段昇り口附近を占拠するに至り、かくして被告人成田、同沢田が一信に立入ることができたというのであることが明らかである(なお、所論は、まず、被告人らにおいて職制の退去を執拗に説得する目的を有していなかつた旨主張するが、被告人らが右の目的を有していたことは、上来説示したとおり、一信、二信における監督職制の者が被告人らの退去要請を拒否するにもかかわらず執拗に説得を続け、一信の岩渕助役に対する如きにおいては、遂に手をかけて引張り後から押すなどして室外に退去させるに至つている事実より容易に推認することができる。また所論は一信においては警備員を排除して立入つたものではない旨主張する。なるほど、一信においては、前示のとおり「組合側は線路側からやんわり押す。当局側は押されればさがる。」との労使間の話合に基き組合側が漸次当局側警備員を押していつて排除したのであるが、右の話合は組合側に挾撃され怪我人が出ることを慮つてなされたものであり、当局側において任意警備を解いたものでないことは前説示に照し明らかである。したがつて、一信における当局側警備員の排除も結局において組合側の実力行使によるものと認めて妨げない)。
右のような本件各立入り行為の目的ないし動機、態様を勘案するならば、当局側が、本件各立入りを受忍すれば、勤務員の職場離脱の際の代務者までも排除され、信号扱所の信号機操作その他列車運行上の支障が生ずるに至るおそれなしとしないのであり、したがつて、当局側が本件被告人らの立入りを拒否したことには、理由がないとはいえない。してみれば、当局側の拒否にかかわらず警備員を組合員ら多数の実力で排除したうえ本件各信号扱所への立入りを強行した被告人らの行為は正当な行為とは称し難く、建造物侵入罪を構成するものとした原判決の結論はこれを是認せざるを得ない。
この点に関し、所論は、まず、原判決は、被告人の信号扱所内に立入つた目的が監督職制に対し退去を執拗に説得する目的を有していたとして、目的における正当性の範囲をこえるものと判断しているが、執拗に説得する程度のものは平和的説得の範囲にとどまるもので何ら違法ではないから、原判決には労組法一条二項の解釈を誤り、ひいては憲法二八条に違反する違法があると主張する。
しかし、信号扱所勤務員が職場離脱の際代務の任に就くべく待機中の職制に対し退去を執拗に説得すること自体は、それが平和的説得の範囲内にとどまるかぎり、刑事制裁の対象にはならないとしても、さればといつて、直ちに右目的による立入り行為が正当視されるものではなく、これにより代務者が排除され信号機操作その他列車運行上重大な支障が生ずるにいたるおそれのあることを考慮すれば、右の如き目的による立入りを当局側が拒否することは理由がないとはいえないから、その拒否にもかかわらず当局側警備員を排除したうえなした本件各信号扱所への立入り行為が建造物侵入罪に該当することは明らかである。したがつて原判決には所論の違法はない。
更に、所論は、本件三・三一闘争は憲法で保障された労働者の基本的権利を保持するための抗議時限ストであるところ、国労の争議行為を全面的に禁止した公労法一七条は憲法二八条に違反し無効のものであるから、本件抗議時限ストが公労法違反の故に違法となるものではない、仮りに右公労法の規定が違憲無効のものではないとしても、それに違反する行為が直ちに可罰的違法性をもつものではない、したがつて右ストに際して参加を呼びかける行為が可罰的違法ということにはならず、右のような目的をもつて信号所に立入つたとしてもそれが正当性の範囲を逸脱することはない旨主張する。
しかし、公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは累次の判例の示すとおりである(最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号同四一年一〇月二六日大法廷判決、刑集二〇巻八号九〇一頁参照)。しかして、公労法一七条一項に違反する争議行為であつても、労組法一条一項の目的を達成するためのものでありかつ暴力の行使その他の不当性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とはならないのであるが(前記大法廷判決参照)、しかし、右争議行為は民事責任を免れないという点においては違法な行為であつて、これを法秩序全体の観点からして全く正当な行為ということはできない。なるほど、本件抗議時限ストは、原判示有罪部分に関する事実第二(一)により明らかなとおり、国労において、国鉄当局が団体交渉における国労優位の労使間の慣行を無視し、国労の組織の弱体化を企図しているとして、国鉄当局に対し反省を促すとともに、慣行の尊重、団結権擁護のため企図実行されたものであることは所論のとおりであるが、そのことにより、直ちに、本件争議行為が民事上も適法であらゆる意味において正当な行為となるものではない。したがつて、かかる公労法一七条一項違反の争議行為により列車の正常な運行が阻害されることを慮り、当局側において、組合役員が勤務員に対し右争議行為への参加を呼びかけるために信号扱所内へ立入るのを拒否することに理由がないものとすることはできない。また、争議行為が公労法一七条一項に違反するからといつて、組合員が右争議行為に任意に参加するのを当局側において阻止することは許されない筋合であるが、このことも、組合役員の前記目的による立入り行為を正当化する所以とはならない。なぜなら、組合側において信号扱所内に立入り直接組合員に働きかけることを拒否されたからといつて、その他の方法により組合員に対し争議行為への参加を呼びかけることができないわけではないからである。してみれば、被告人らの本件立入り行為の目的が正当性の範囲に留まるとする所論の採用できないことは明らかである。
また、所論は、公安官を含む当局側ピケは、正当な組合活動を阻害することを目的として、組合員と組合執行部の接触すら実力で禁止しようとしたものであるから、それ自体違法なものであり、組合としてこれに抗議し、団結の示威等で右妨害をやめさせることは何ら不当なものではないから、信号扱所周辺の当局側警備員を排除したうえでなされた本件立入り行為が、その態様においても、正当性の限界を逸脱しているとした原判決は、労組法一条二項、憲法二八条に違背する旨主張する。
しかし、当局側の警備は、組合員による信号扱所占拠、それによる列車の運行停止の事態を防止することを目的としているのであり、正当な組合活動を阻害することを目的とするものでないことは前認定のとおりであるから<証拠判断略>所論はその前提において既に失当である。
その余の所論はいずれも独自の見解に基くものであつて採用できない。
その他本件記録ならびに原審および当審で取調べた証拠を精査するも、原判決に所論の事実誤認ないし法令適用の誤りあることを窺わせるに足る資料はない。論旨は理由がない。(鈴木潔 山口繁 神田鉱三)